果して誰がそれを言ったのか、今となってはわからない。



エアリア番外:壊死の呪の話




山の麓にその街はあった。
街の名前とささやかな歓迎の言葉が刻まれていたであろうアーチは腐り落ちている。

木製の家々の壁も同じく腐り落ちていた。響くのは声ではなく梢の音。
建造物は「自然に」壊れていた。どこにも人為的な痕は見当たらない。
「それでも、ここは呪われていたんだね・・・」
少女は哀れみを含んだ視線で街を見やる。


「えし?」
「そう、壊死。一番性質の悪い呪い。襲ってくるのではない、侵食してくるんだ」
「しんしょく?」
「ひたひたと、ただ近づいてくるのは足音だけ。死ぬ瞬間までその主の正体はわから
ない。
識っている者は言うだろう、主は『老い』と言う名の死神である事を。そして」
「そして?」
「全ての人間は等しくその呪いを持っている」


貴方はそれを求めているのではないのですか?
しかし、それを手に入れたところで何になりましょう。
私はそれもまた呪いだと思いますよ。


少女はまだ幼かった。
それでも彼女には分っていた。


「それじゃあ、人は皆生まれた時から呪われていると言うの?」
「俺はそう思う。人間は呪われているんだ。実際生きているっていうのは死に向かっ

時を過ごして行くだけさ。まったくもって無駄な時間だ。60年経てば全てが終わっ
ちまう」
「・・・それでも、記憶は残るわ。痕跡だって残る。多分、そのために私達は生きて
いるのだと思うのよ」
彼女が真顔で反論すると、男は軽く肩を竦めて言い放った。
「記憶なんて10年経てば忘れられちまう。痕跡なんて100年も残らないさ。腐り
落ちて、終わりだ。
・・・そうだな、この世界全てにその呪いはかかっているんだろうな。生きる者だけ
ではなく、生きない物にも」


男と別れてから、少女は旅を始めた。
そして、現実を見た。

「この村の人たちは・・・皆、呪われたんだ・・・」

痕跡も、記憶も、そして生きていたものも。

壊死は、全てを飲みこんでしまう。まるで、そう・・・・


蒼く青くあおくアオイ世界の中で、男は空を見上げた。
「アイツ、変に虚無的だったからなあ・・・」
小船の上に座りこむ。
「・・・どうにもならねえんだよ。どうにかしちまったらそれこそ大変な事になっち
まう」
別れる直前に彼女はこういった。

「その呪い、解いてみたい。それでは世界が可哀想」

「解いちまった方が、世界は可哀想だ。変化の無いものほど恐ろしい物は無い」
彼女は、やる気なのだろうか。
もしそうなら、自分は・・・・

どうするべきなのだろうか?

彼女が世界を変えられるとは思わない。そんな力は無い。それならほっておいても良
いのではないか。


しかし、もし億が一の確率で彼女がそれ相応の力を手に入れたら。



教えたのは、自分。



男は立ちあがって、ようやく水平線の彼方に見えてきた大地を見つめた。
とにかく追って止めなければ。
どこに居るかは判らない。だけれども、自分には義務がある。責任がある。

果せなかったら、死んでも死にきれない。




そして彼女は力を手に入れるために歩き出した。

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多分続きます(汗)ついでにこの「少女」はエアリアじゃ無いです。
あんまりMLに出てこない某お方です(爆)でも凄く書きやすいですね、こーゆー話
(死)