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はじめに・・・・ この話しはmeiraさんに本編ではカガリ意外 澪晶宮(カガリの住まい)に入れない、回想シーン意外で本編では使わないという条件のもとで、新しい注意事項に改定される前に許可を頂きまして、異界という設定を使用させて頂きました。(現在の澪晶宮はホウコウの頂きの別次元に封印されてます) ですので、すみませんがどなたも澪晶宮に御呼びする事も使用する事もできない事をご了承下さいませ。 またこの話の末巻にやたらとややこしくなってしまいました鬼霞村の補足説明、及び用語などを纏めたもの がございますのでお急ぎの方は宜しければそちらの方をどうぞ。 カガリ外伝 鬼の棲む邑 〜1〜 太古の昔、人間(ひと)が創られてまだ間もない頃 人間・神・精霊は共にあった。 ところがある日人間は知恵という禁断の実を食し 自然の秩序からはずれた存在となった。 そしてその数は田畑を覆い尽くす飛蝗(いなご)のように増えていき 世界に暗い影を振りまいた。 やがて神々はその穢れに耐えきれずこの地から去っていった。 しかし地上と常世を結ぶ門は彼の地に開かれたままだった。 そこで天帝は雷公に命じて門を守護せしモノを創らせた。 それは門の一部に連なるモノ・・・ 人間でも神でもない中立のモノ・・・ 鬼霞村口伝 (口語訳 ) ラージバル大陸の東の最先端に一連の岩山が広がる地があった。 その中で最も高い山がある。その名はホウコウ。 無数の峰が寄り集まったそれ全てを指してホウコウと呼ぶが、大きく分けると九つの俊峰に分ける事ができる。 そして複雑に入り組んだそれは緑と岩と水とが織り混ざり、所々に荘厳で豊かな景観をみせたが、殆どは険しく複雑怪奇な地形をしていた。 その山の片隅を二人の男が歩いていた。 一人は名を榎内 彩牙(かない さいが)と言い、大きな青龍刀を持った都人である。 もう一人は名雲(なぐも)といってこの渓谷の奥にあるヒラキドという邑(むら)に住んでいるそうだ。 彩牙はこのホウコウを昇っている最中、都から帰る途中竹林で虎に襲われかけた名雲を助け、彼の案内でその邑に寄らせてもらう途中だった。 彩牙は名雲が道すがら邑について話し出すのに耳を傾ける。 その内容はなんでも、そこの邑は都に住んでる連中からは快く思われていないらしく、〈鬼が棲む邑〉とか、邑人(むらびと)事態も夜叉族(やしゃぞく)とか言われていて、山奥の部族国家であり都の統治から逃れている為であるらしいとの事だった。 二人は幾つもの林や森を抜け時には崖に近い斜面を登り、大きな渓谷に辿りついた。 その渓谷には釣り橋が架かっていて、縁からは遥か彼方まで連なる山々の影、そしてその合間にゆっくりと雲海が流れていく様子がみて取れた。 なんとも清清しいその絶景に、彩牙は疲れも忘れすっと目を細めて暫し見とれた。 そして先を歩いていた名雲が景色に見とれている彩牙を見て自慢気に言う。 「はは、綺麗だろ。ここの景色もいいけどな、うちの邑はもっときれいだぜ。それに・・・うちの姫様見たらもう邑から出たくなくなるぞ」と親指を立ててクイクイと振り早く来いとの仕種をする。 「名雲の村は相当良い邑らしいな」 苦笑しながら名雲に続く彩牙。 そしてそして二人はやがて目の前に迫った、底の見えそうにもない谷と谷の間に架けられた長い長い吊り橋を渡りはじめる。 彩牙は吊り橋といえば真直ぐのものしか見た事がなかった。 だがどうやって作ってあるのか解らないがここの橋は渓谷を縫う様にくねくねと曲がっていた。 そしてその橋の終着が見え始めると共に、雲のかけらから次第に邑の容貌が朧げに浮上してくる。 彩牙は息を飲んだ。邑の黒い影の中キラキラと何か光っているものが見える。 そして良く目を凝らしてみると、それが村の奥にある建物からの光りだと確認できた時には言葉も出なかった。 ヒラキドは全体として規模は小さかったが、自然の恵みを沢山に受け邑人達は皆生き生きしてた。 道端で走り回る子供達ゃ、軒の下で煙草をふかしながら雑談する老人達、そして二人がその側を通ると老人達は奇異な目を彩牙に向けたがまたすぐに話しに夢中になりそっぽを向く。 二人はやがて細い荷の積んである建物の側を曲がり大路へ入ると向こうから羊やヤギの群れを連れた名雲より二つ年下の少女がやって来て名雲に気付き話し掛ける。 それから少女は鹿の様な優しい目元を彩牙に向ける。 けして敵意のある視線ではないが困惑している様だ。 「あ、こちらは榎内 さいが(かない さいが)殿 俺の命の恩人さ」 「初めまして榎内 彩牙と申します宜しく」 と一礼する。 「・・・宜しく、私は女鹿です」 と彼女も一応礼を返すがすぐに名雲を見て何やらごにょごにょと耳打ちし、さっさと羊達を連れて村の細い上り坂へと歩んでいってしまった。 彩牙はどうも先程から奇異な目で見られるので頭をグシャグシヤかきながら 「俺・・・何かマズかったか?」と聞いてみる。 「あ、いや、ここの村ではあんたが珍しいだけさ。都へ行く人間はいてもこの村へやってくる人間は年に数える位だからね」 「そういうものか・・・?」 「ああ、そうさ。それより疲れただろ、俺の家で飯にしようぜ」 と名雲が村の大路を歩き出したので彩牙もそれに並んで歩き出した。 名雲の家は藁葺屋根の小さな家で、村の外れの方にあり周りは何やら岩に囲まれて閑散としていた。 藁編みの暖簾を潜ると中央に囲炉裏があって板の間に幾つかの座ぶとん、行李(こうり)、魚籠などが雑然と置いてあって奥に襖と小さな棚が設置された簡素なものだった。 「いや、悪いね。俺一人もんだからさ、体したお持て成しもできないけどまぁ、座ってよ」 「ははは、今夜は野宿を覚悟してたから屋根がある所で寝られるだけでいたれり、つくせりだ」 とすすめられるままに彩牙は座ぶとんに腰を下ろす。 それから二人は名雲が作った川魚料理を腹の中に納めて一服していた、すると突然さっきの女鹿という少女が息をきらせて暖簾から顔を覗かせる。 「名雲っ! 姫様からの思し召しめしよ」と戸口に手をかけ乱れた息を整えながら告げる。 そして腕を持ったままの彩牙を見て 「勿論そちらの昇客(しょうきゃく)殿も一緒にって・・・」と苦い表情をする。 そして名雲を手招きで呼び寄せてから、ちらりと彩牙に一瞥を投げ二人は家の外で何やら喧嘩し始める。 戸とは名ばかりの藁の暖簾の内側で彩牙は会話を丸丸拝聴させられる。 「名雲ーあんたまた浮気してたわねー」 その素頓狂な言に彩牙はどっと疲れを感じる。 女鹿は名雲の胸ぐらを掴むとぎっと名雲をねめつける。 「メ・・・女鹿やだなあそんな筈ないじゃないか・・・僕には君だけだよ・・・」 完全に尻に敷かれてるな、と彩牙は一人部屋の中で納得する。 「ふん、なにさなにさっ都の女がそんなにいいならあんたなんか都に行っちゃえ!」 と言うと急にじわぁと目に涙を溜始める。 それを見て名雲はどうしたものかとじたばたする。 「だっ、だから違うってば・・・」 「うそ・・・最近のあんたしょっちゅう都からのお土産持って来たり、変に優しかったり、きっと私に隠し事してるんだわ」 「だーもう、どうしてそうなるの?」 彩牙は御馳走様と言った体でうんざりした顔になる。 そして見兼ねて名雲に助け舟をだすべく暖簾から顔を出す。 「御呼びがかかっててんだろ。そろそろ行こうぜ」 少女は八つ当たりで彩牙を睨むがすぐに名雲に向かってベェと舌を出し 「あんたなんて鏡様にたっぷり油絞られればいいんだわっ」 と言うとズカズカと建物の奥の方へとまた駆けていった。 彩牙と名雲に続き先程の大路に出た。ただ違ったのは更にその先へと歩いている事だ。 この邑自体は大きくはないと最初に述べたが、山あいの村だけあって昇り坂や下り坂は勿論階段もそこここにあって全体を一望するのは難しい。 だが今向かっている先ではそれが簡単にできそうだった。 何故ならこの邑の中にまた延々と続く階段を有する建物があってそれが大路の突き当たりに敢然と建っているからだ。 そしてその建て物目指して二人はひたすら両脇が自然石で配列され、水がサラサラと流れ落ちる石段を昇り始める。 邑に入る前に見た光の正体はこの水だったのだろうか?と彩牙は少々首を捻る。 そして最初こそこの建物を目にし、その美しさを讃美したが、今ではこの長い石段に辟易して心の中で "なんて偉そうな所に棲んでやがる奴だ、姫さまだか女王様だか知らんがどうせロクでもない奴に決まってやがる " と心の中で悪態をついていた。 どれ位たったか解らないが二人が丹塗りの龍や鳳凰の木彫りがされた巨大な門闕(もん)の下に到着した時には名雲はすっかりばてていた。 ・・・が彩牙は石段に辟易したとはいえ、ケロリとしたもので名雲は少し気味悪がっていた。 門闕の中央には黒い板に金の文字で澪晶宮(れいしょうきゅう)と掘られた木製の板が掲げられている。 それを見た彩牙がまた嫌そうに顔を顰める。 「やっぱり、帰る」 と回れ右した彩牙を名雲が袖を掴まえ引き止める。 「ちょっと待てお前何しにここへきた」 「いや、堅っ苦しいの、苦手でな・・・」とあからさまに嫌そうな顔をする。 「な・・・お前当初の目的忘れてないか?」と名雲は慌てて言う。そして彩牙の背中を押しながら 「まぁ、いい。兎に角姫様には会ってもらうぞさあ」 と先に促すが彩牙はやっぱり気乗りしなくて 「俺はやっぱり帰らせてもらう。やりたくない事はしないし、誰からも強制される義務もない」ときっぱり言い放つ。 ここで姫様からの避雷針に逃げられては一大事と名雲は揉み手しながら言う。 「彩牙さん、今ここで引き返すのは勿体ないですぜ・・・何しろ姫様はそりゃあ別嬪でな、その上ここにはお宝が一杯ですぜ。あんたの腕前ならこの宮から抜け出すのは容易いじゃないですか・・・」すでに言っている事がチンピラだった。 彩牙は呆れ顔で尚も考えるが、渋々承知する。 「全くお前なぁ・・・解った。仕方ない御姫様に会おうじゃないか」 と門闕を潜ろうと歩き出したその時だった。 高いの墻壁(へい)の上から凛とした女の声が降る。 「それは感謝する」 彩牙が見上げたその先には巨大な門闕(もん)に連なる墻壁(へい)の瓦の上に長い裾の繻裙(きもの)を纏った女の影が太陽を背負い逆光となって座っていた。 「あまり遅いので様子を見に来た」と言いうと、やにわにその影は立ち上がり有ろう事かその墻壁から飛び下りる。 肝を冷した彩牙は慌てて影の落下するであろう地点へと駆ける。 影は長い繻裙の裾をはためかせて降ってくる。 それが妙に現実離れして見え、自分が慌ててる以上にゆっくりとスローモーションで彩牙の目に焼き付いた。 やがて彩牙の腕にドサリッと手応えが生まれる。 彼女を無事受けとめると、それ意外に何故か別の理由でホッとした自分がいた事に彩牙は気付かなかった。 そして彩牙を見上げるその金の瞳。 意志の強そうな強い光りとぶつかり彩牙は自分の心を射抜かれた錯角を起こし、暫し言葉をなくして立ちすくむ。 「悪かったな・・・」 ポツリとその女性は彩牙の腕に抱えられたまま呟く。 しかし声にはその言葉とは裏腹に命令しなれた者特有の強さが宿ってた。 そして彼女は豪奢な釵子(さいし)をシャラリと揺らして身軽に地面に降り立つ。 我に帰った彩牙はいきなり自分でも止めようのない怒りがムラムラと込み上げ 「ばかやろぉぉぉぉぉっ! 何考えてんだっ。あんな所から出て来て飛び下りる奴がいるかぁぁぁっ」と絶叫する。 「何を怒っておる?」 「これが怒らずにいられるかっ、お前は俺をおちょくってんのか!」 真っ赤になって怒鳴る彩牙をキョトンと見つめ女は近くの名雲に聞く。 「・・・・・・名雲、何故彼は怒っている?」 「鏡様が普通の女人だと勘違いしているからですよ」 名雲はやれやれといった様子で答える。 そして興奮した彩牙の肩を掴み、言い聞かせる様に言う。 「彩牙、頼むから落ち着いてくれ。こちらはヒラキドの長、御雷杖鏡姫(みかづえのかがみひめ)様だ」〈カガリの祖国での呼び名です ^_^; 〉 そして名雲はすぐに彩牙の肩を離し続ける。 「鏡様はさっきも言ったが普通の女人とは違う・・・その巫女でもあらせられて不思議なお力を持っておられる。だからさっきの様な御降るまいをしても大丈夫なんだ」 「・・・っは、そうかい。俺にはとてもそんな風には見えないがね。まぁどうでも良いさ」 と言って彩牙は今度はプイッと横を向いてしまう。 鏡はその様子を見てフッと微笑むと 「すまなかった。まさか主が受け止めにくるとは思わなかったのでな。主の心遣いに感謝する」 鏡にあっさり正面きって礼を述べられると彩牙は今度は別の理由で耳まで真っ赤になる。 そしてそっぽ向いたままボソリと言う。 「いや・・・俺も、俺も怒鳴ったりして悪かった」 鏡はクスクスと笑いを肩で堪え、名雲も何とか場が和むのを見てつられてヘラヘラと笑う。 しかしすぐに鏡の次の一声で名雲は固まる事となる。 「それはそうと名雲、許可なく昇客を村に入れた理由、澪晶宮でしっかりと聞かせてもらおうか?」 振り向いた鏡の鋭い視線にびくりっとする名雲。 彼は情けない顔で小さく「はい」と答えただけだった。 澪晶宮は門前の階段に負けず劣らず立派でまるで桃源郷に迷いこんだ様だと彩牙は思った。 中の建物も、柱など至る所に丹塗りが施された物が多く、園(にわ) は牡丹や椿など色とりどりに咲き乱れている。 そして何よりも驚いたのが、大きな池があったり路亭(あずまや)があったりするのは普通の貴族の館第なら当たり前といえるが、ここではどこからどう運んだものなのかそれらの周り以外にも建物の周りが自然石で囲まれそこを水が流れていたり、テン、テンと涼やかな音を響かせる水滴の飾り物が置かれていたりと、兎に角水で溢れていた。 こんな山奥で何処かからわき水か出ているのか、滝でもあってそこからひいているのだろうか? と彩牙は疑問を持ったが館第の中を滑る水は濁りがなく、陽を反射させる様はまるで金剛石を見ている様で、すぐに "まぁ、そんな事どうでもいいか "と思い直す。 一行は石畳の前院(まえにわ)を抜け反り返った紅い小さな掛け橋を渡り丸い形にくり抜かれた塀を潜ぐると漸く(ようやく)彫り物の施されててる障子扉に辿り着く。 そこは落ち着いた雰囲気の客庁( きゃくま)で一行は丸い大きな卓(つくえ)を囲み椅子に掛けていた。 「昇客殿、先程は失礼致した。風雅を知らぬ田舎者の振る舞いとお気を悪くなされないでいただきたい」 と鏡は丁寧に述べ礼をする。 彩牙は言われるまでさっきの事をもう気にも留めていなかったので 「いや、もう過ぎた事ですし、驚きはしましたが別に悪くは思っておりません。どうぞお顔を上げて下さい」と慌てて告げる。 そして鏡は顔をまた凛と上げると真摯な瞳を向け問うた。 「では早速だが、彩牙殿はどういった御用件でこの村に参られたかお聞かせ願いたい。見た所行商や物見遊山で参られた様には見えぬが・・・」 「ああ、それだったら特に用があってこの村に入った訳ではない。そこにいる名雲殿とたまたま道中でお会いして、この村まで連れて来てもらっただけだ」 「それでは、当初の目的地がこの村ではなかったと言う事か?」 「ああ、そうだ。もともとはもっと先にある異国の側の林に行きたかったが、朝廷の監視が厳しいんでちょっと山でも越えていこうかと思っただけさ」 「異国・・・か? それは禁止された行為なのではないのか?」 「ははは・・・まあね。だけど国境を越えなきゃ別にいいのさ。俺はその近くの森につけば多分用がたりるんでね」 「・・・・・・してその用件とは?」 「おいおい、さっきから質問攻めだな。この邑に入る奴皆にこんな感じなのか?」 彩牙はふと疑問に思いポツリと口に出してみた。 それには名雲が遠慮がちに答える。 「いや・・・いつもはこんなじゃなかったと言うべきか。ちょっとした事情があってね」 辺りを漂う緊迫した空気。 歯切れの悪い名雲の言に彩牙はちょっと顔を顰めて今度は彩牙が問うた。 「事情・・・か。何かやっかい事が持ち上がっているという事だな」 「まぁね。だから今の時期あまり外部の者を村に入れたくない・・・というのが正直言って、邑の本音なんだ」 名雲は彩牙のピリピリした気配にびくびくしながらそっとため息を吐く。 彩牙は難しい顔のまま言ってみる。 「外部(よそ) の人間には教えられないって事か」 「・・・・・・・」返答に窮す名雲。 彩牙は少し腹立ち紛れに今度は鏡に向かって言及する。 「俺は、別にこの村に危害を加える目的は一切持ってない。ただ、売る為の木材を採りに行きたいだけだ」と声が高くなりそうになるのを抑えながら言い放つ。 それでも鏡は相変わらず夜の湖の様な静けさを湛えて彩牙を見つめ返す。 「あい解った。さすれば旅路の保養を早々に済ませてこの村を立ち去るが良い」 彩牙は鏡のこの言葉に胸の奥からふつふつと競り上がりそうな熱い感情を抑えるのに必死だった。 自分で何故この様に怒りが込み上げるのかという疑問を抱く余裕が今の彩牙には欠けていた。 頭の片隅ではこの様な小さな山あいの村では、他所者( よそもの)が好かれる事がなくても仕方ないと解ってはいるのだ。 では何だろう? 質問ばかりで冷遇されたと感じるからだろうか・・・それも無論少々の理由ではあるが・・・いや、その原因の大元は彩牙のもっと心の奥深くにあったの だが、無骨な彩牙にはまだそれが何であるか気付く事ができなかった。 そして訳の解らない怒りが頂点に達した彩牙はバンッと卓を叩くと立ち上がり無言のまま出口の方へと踵を返す。 倒れた椅子がガタリと悲鳴を上げる。 場の緊迫した様子にずっと押し黙って座っていた名雲が弾かれた様に慌てて彩牙を追って立ち上がる。 「彩牙、待ってくれ・・・」 そして名雲が扉を出る直前、鏡が今迄からは想像できない様な烈火のごとく声を発する。 「名雲っ待て!お前には話しがある」 突然の怒号に名雲はびくりと立ち止まり鏡の方を反射的に振り返る。 「あ、あの何か?」 「その懐のモノは何ぞっ!」と言うが早いが鏡は手近にあった瓶子を名雲に投げ付ける。 名雲は "ひいっ " と声を上げ顔をかばった。 瓶子は見事に名雲の胸に当たりガシャンと砕け散る。 その弾みで何かが床にゴトリと落ちた。 突然の事に驚いて高欄に立ち尽くす彩牙を尻目に鏡はつかつかと歩みそれを拾う。 それは翠の玉佩(たまかざり)だった。 そして鏡はその三日月の柳眉を顰めて、 「さっきからチリチリと額が痛んだのはこれか。全くロクでもないモノを拾ってきおって」とそれを目の前の睡蓮の咲き乱れる池にボチャンと投げ込む。 名雲はハッとに我に返り「か、鏡さまぁ・・・何をなさるんですかぁ」と半ベ状態になっていた。 鏡はそんな名雲を見向きもせず池の方を厳しい表情のまま無言で見つめる。 「・・・・・・・・・来るぞ」抑えた声で低く鏡が告げる。 盛大な音と水しぶきをたてて投げ込まれたそれは池の底に一度は沈んだかに見えた、が俄にブクブクと泡を噴き始めるとそれが急に浮かんできた。 そして玉佩から黒い影が立ち篭めたかと思うとそれは池のほとりを飛んでいた蛙に巻き付き蛙の皮膚の下へと潜り奇妙な形に膨張して倒れた椅子の高さ位までになった。そして膨らみ終えるとやがて黒い粘着質の異形の物ズルズルと高欄を這い昇ってきた。 流石に剛胆な彩牙もこれには怖気を模様し、少々血の気が引くのを感じて客庁へと引き返し間合いを取る。 そしてその異形のモノはシュウシュウと息をするたび腹と思われる部分を膨らせながら一歩、一歩と一同へと近付いてくる。 鏡は怯えた様子もなく冷たくそれを見下ろす。 「変質された陰の気か。全く汚らわしい・・・」 名雲は完全に我を失い部屋の奥で訳の解らぬ言葉を声にならない声で叫び、彩牙は唯一の武器である青龍刀を引き抜き構える。 そして鏡が素早く不思議な形に手刀を切るとそれを合図の様に異形の蛙はとてつもないバネで目にも止まらぬ早さで中に跳んだ。 瞬間、鏡を守ろうと地を蹴った彩牙だったが、目の前で起こった出来事に目を丸くする。 何と池から涌き上がった水が水晶のごとく異形のモノを包み込み中に繋ぎ止めていた。 その異形のモノはゴボゴボと苦しそうに悶え泡を盛大に吹き出すがそれ以上は前に進む事は決してできなかった。 そして鏡は静かになにやら呪(しゅ)を唱え始める 「カシ・・・・ミ・・・カシ・・・ミ・・・ラハラノ」 彩牙はその旋律を美しいと思い聞き取ろうとしたが、比較的聴力の良かった彼の耳であっても不思議とその音律を完全に拾う事ができなかった。 そして鏡の詠唱が終るとその異形のモノはジュワァァァァといった音をたてながら水に溶けていく。 またそれを包んでいた水もそれに呼応する様に蒸発していった。 それらが終ると池はまた何事もなかったようにしんと静まり返る。 刀を鞘に納めた彩牙はふうと一息つくと抑えた声で鏡を見つめて問う。 「今のは何だ」 「・・・・・・異形のモノ、人間によって捩じ曲げられた力」 「あんなモノしょっちゅう出るのかこの村は」 「いや・・・ここ最近だ」 「・・・大丈夫なのか?」 「平気だ」 「・・・・・・」 「これで解ったであろう。この村は今、危険だ。つい先日この山にある八つの封じの内三つまでが穢された。そして今のはそれと同じ流れのモノだ」 「それは、どういう事なんだ?」 「つまりは・・・都に不穏な空気が蠢いているという事だ」 「都! 都が絡んでるのか?」 「・・・・・・」 鏡は肯定とも否定もとれぬ態度で欄干へと歩む。 そして落ち着きを取り戻した名雲が説明をする。 「この村はな、チャムゃワサビといったこの地特有の農産物や淵黒という鳥が作る食用の巣などを交易品として都に持っていってるのは知っているよな」 「ああ、チャムも高価だが、ワサビはテーヴァでも水の綺麗な所でしかとれないっていう代物だし、ましてや淵黒の巣なんていえば目玉が飛び出るほど高い逸品だな」 「そう、それにこのヒラキドでは砂金なども取れたりするんだ。これだけの利益を得る物があれば行商人は勿論、都にいる帝はどう思うと思う?」と名雲が困った顔をして言う。 「・・・なる程、陶然属国にするか統治したがるだろうな。だが、どうして今まで無事だったんだ?」 「この村のある位置と鏡様がおわすからだ」名雲は至って真面目な顔で言う。 「???あのなぁ、村の位置ってのは解るぜ。こんな険しい山奥だ、軍を率いてくるのはできなくもないがあまり効率がよくない。だが・・・その鏡様ってのはなんなんだ」 「それはさっきも見たように、鏡様には御力がある」 「・・・ああ、そうだな。だがそんなに凄いものなのか鏡様の力とやらは」 「まぁ、知りたければ自分で試してみろって言いたい所だけど。止めておいた方が身の為だよ」と名雲は肩を竦める。 彩牙は鏡が不思議な力を使う事は解ったが、怪訝な表情をしたまま半信半疑でその場は取りあえずその言葉をそのまま鵜のみした。 「つまりは俺を都の間諜だと思った訳だな」 「思ったではなく、まだ今も疑われてるよ」と名雲は彩牙に耳打ちする。 彩牙はもうどうでもいいといった様子で椅子にドカリと座り誰にともなく問う。 「・・・で例の穢れと都についてはどう関係があるんだ?」 鏡は相変わらず園の方を眺め押し黙っている。 名雲は更に仕方なく続ける。 「それについては、封じは人為的なもので穢されている。つまり鏡様の御力をそちら に向けてこの地を護る力を削ごうという考えなんじゃないかな」 「・・・なる程な。聞いてる分には筋が通ってる様な気はするぞ」 「ただ問題なのは・・・」ふっと表情(かお)を曇らせる名雲。 そこで名雲は自分がベラベラと喋っていた事に気付き、恐る恐る鏡の方へと声をかける。 「・・・・ぁ・・・あのぅ・・・鏡様。か、帰ってもよろしいでしょうか」引きつった顔で無理矢理わらう。 鏡は無言で振り返ると鉄面がはりついた様な無表情でボソリとつげる。 「お去(ゆ)き」 彩牙はある意味怒鳴られるより、こちらのほうが数段恐ろしいなと思い苦笑した。 「それでは俺もそろそろお暇させて頂きます」と彩牙は立ち上がり腕を組んだ礼をする。 しかし鏡からは当初とは違った返事が返ってきた。 「彩牙、はここまで知ってしまったからには、この村を出るまではこの澪晶宮に滞在してもらう」 彩牙はフッと唇を歪め、皮肉な笑いを張り付け言う。 「それじゃあ、名雲を門まで送ってくる」 「好きにするが良い」 そう言うと鏡は何処へか歩み去っていった。 彩牙は心弾ませさっきとはうって変わりまさに狂喜乱舞しながら名雲の腕を取って振り回した。 「はっはっはっ・・・聞いたか、聞いたか? 俺にあの姫様 "滞在してもらう "だってよこれもお前さんが変なモノ持ってきてくれたお陰だよ」 名雲もすっかり安堵してにニカニカと笑う。 「ああ、俺も彩牙さんのお陰で姫様に長々とは説教されずに済んだよ」 と彩牙と手をパチンと会わせる。 今の二人には妙な連帯感が生まれ、意気投合していた。 「でも彩牙さんも物好きだね。こんな厄介事にわざわざ自分から巻き込まれて」と名雲が怪訝な顔でいう。 「はっ、俺は生来の祭り好きなんだよ。こんな面白そうな事に参加しなくてどうする。人間の一生なんて短いもんだぜ」 と彩牙が豪語する。 それを受けた名雲は視線を床に落としたまま、呟く。 「・・・そうだな、確かにそうだ。彩牙さんや俺ならね・・・・・・・」 怪訝な表情の彩牙の瞳に映ったのは、何故だか寂し気に出口へと向かう名雲の西日に照らされた背中だった。 すっかり陽が傾き茜色に染まった空に生えた、澪晶宮の幾重にも細く積まさった塔の黒い影の側をカラスが群れで飛んでいった。 名雲と彩牙は院子(にわ)の砂利道を歩いていた。 「なぁ、名雲気になったのだが、この村は今迄に都の襲撃にあった事とかないのか?」 「・・・ん?なんだ急に」 「いや、さっきの話しじゃ何べん襲われてもよさそうなものなのに、思っただけさ」 「彩牙さんまだ聞きたいの? 詳しい事」 「いや、大体は聞いたがどうも解せなくてな・・・ここの地形には納得できたが、鏡姫様の事については何も解らず次舞いなな気がしてな」 名雲はニヤニヤ笑いながら彩牙を見返した。 「ははーん、旦那惚れたな。」 「 っ!! 」 突然の言葉に彩牙は耳まで真っ赤になる。 「いや、そんな・・・確かにお美しいがっ、そのお・・・俺はっ!」 そして声が上ずらせ慌てて手を振る。 「図星か・・・」 冗談のつもりで言った名雲はやれやれと言った体で空を仰いだ。 そして真顔になると静かに言う。 「姫様はお美しい。それに志しも御立派な方だ・・・だがな、姫様だけは止めときな」 「・・・・・・なんだそりゃ?」 彩牙は怪訝な顔で聞き返す。 「身分違いとかそういう事を言ってる訳じゃないけど・・・」 名雲の視線は門闕(もん)より遥か遠くへと注がれそしてそちらを凝視したまま言葉を発っす。 「姫様は・・・姫様は人間ではあらせられない」 一歩立ち止まる彩牙。それでもまたすぐにまた歩み始める。 「人ではない・・・か。確かにあの御力を見ればそうかもしれないと思うだろうな・・・・・・」 「俺はこの村で生まれ、この村に育ったが、鏡様は俺が小さかった頃から少しも変わっておられない」 「・・・この世界では長寿の種族がいても珍しい訳ではないと思うがな」 彩牙が畳み掛ける様に問うたのを聞くと名雲はプイッとそっぽを向きため息を一つつく。 「ああ、そうだな・・・だけど俺は時々思う、この村は本当にこのままで良いのか?鏡様のお陰でこんな山あいにも関わらず飲み水には苦労せずにすんでいるし、生計をたてる為の自然も豊かだ。だけど・・・本当に鏡様に頼りきってて、俺達はこのままでいいのだろうか・・・・・・俺は・・」名雲は言葉にするにはあまりにも恐ろしい その言葉をかろうじて飲み込む。 __ 鏡様が居なくなってしまえば、この村はどうなるのか・・・と__ 「別にいいんじゃないか?人間ってのは使える物があれば何でも使うし、生き抜く為に決して優しくはないこの土地で日々懸命なってるじゃないか」 「・・・・・・」 「人間ってのは逞しい生き物だぞ。生き抜く為にはどんな手段も選ばい。例え、それが自然の摂理に反した事でも・・・だ。明日には明日の風が吹くさ。あんまり考えすぎると熱だすぞお前なら」 彩牙は豪快に笑う。 名雲もようやくあきれ顔で微笑んだ。 この男の正直さに感謝しつつ・・・。 やがて二人は門闕の下に着くと握手をかわした。 「それじゃあ、彩牙さん御達者で・・・」 「おいおい、生き別れみたいな挨拶じゃないか」 「へへ・・・そうですか?そんなつもりはなかったんですけどね」 名雲は照れ隠しに頬を軽く掻いた。 「まぁ、でも出発する時御会いできるかどうか解りませんので・・・」 「そうか。じゃあついでに聞いておこうかな?飲み水については鏡様のお力が何か関係があるのか?」 「いえ・・・そうですね、彩牙さんは今日宮に御泊まりになるんだから直接探してみるか鏡様にお聞きするかすればいい」 そして名雲はニタァと意地悪い笑みを浮かべ、百物語を語るような変な節で語り出す。 「そういえば、この村が襲われたかって聞いてましたよね」 名雲の笑みに不穏なものを感じつつ彩牙が「ああ」と頷く。 「それじゃあ最後に土産話しもおマケしてさしあげやしょう。俺が生まれる前の話しらしいんですがね・・・帝が選りすぐりの尖兵を偽装させた友好とは名ばかりの使節団を送ってきた事があるらしいんですが・・・やつらどうなったと思います?」 「追い返されたのか?」 「ええ・・・送り返されましたよ。一団纏めて御首(みしるし)としてね」 そして名雲は自分の首の前を手でさっと横に払い斬られるジェスチャーをする。 そして後押しとばかりにケッケッケッと笑った。 彩牙は渋い顔でこいつは・・・と思う。 「ヒラキドにはね、姫様以外にもこのホウコウの守護を補佐する八連祗(はちれんき)っていう恐いおっさん達がいましてね、間違っても姫様に手ぇ出そうなんて考えない方が身の為ですぜ」 と偉そうに言う名雲。 彩牙は名雲の肩をポンポンと叩き 「お前みたいな助平と一緒にするな」と言う。 「あ、ひっでぇ」 それから顔を見合わせぷっと吹き出す二人。 彩牙はそれからちょっとだけ残念そうな顔をするがまたすぐに微笑み。 「そうか・・・じゃあ、名雲も元気でな」 「はい。では・・・」 こうして名雲は帰りは元気に石段を下っていった。 「しかしまぁ・・・とんでもない事を聞いてしまったもんだ。名雲め」と彩牙は一人腕を組んみながらとぼとぼと元来た道を戻っていった。 ヒラキドはこの時都と一応は正常国交していた。 だが、この御首事件のすぐ後、帝は怒り狂ってヒラキドからの輸入品はいっさい取り引きするなというお触れを出した事があった。 最初こそは帝を恐れた商人達はそれを実行していたものだがそれでも常に法の目を潜り不正な取り引きをするものはいた。その事が原因でただでさえ高価な輸入品は更に貴重な品となり不正取り引きは増す一方、しまいには紛い物ばかりが横行する始末となった。 当然帝は商人達から強烈な反発をくらう羽目になり、すぐにヒラキドに謝罪して国交正常化したのだった。 これ以来ヒラキドに対する都からの、表だった襲撃などは一切なくなったのだった。 都の丑三つ時は魑魅魍魎が跋扈する最高の時間だった。 自然の海を表現したとされる砂利で模様を描いた庭。 松と松の間に置かれた灯籠の横から顔を覗かせる異形の小鬼共。 夜にも関わらず煌々と宮中を照らす灯りは昼と同じく人間の活動するそれには十分だったが、彼等の存在に気付く者はいなかった。 だが・・・渡り廊下を歩いていた僧侶服の男が足袋をはいた足を止める。 「ふ・・・雑鬼共か。山の乱れに惹かれてやってきたか」 壮年のその男は闇より深い影を宿したその双眸をすっと細める。 「確かにこの宮中の方がお前達には魅力的だろうな・・・くっくっくっ」 そうしてまた何事もなかった様に歩み始め、小姓の控える入り口の前に着き、中へと入っていく。 後ろでパタリと静かに障子戸が閉められ、その男は奥の御簾の前へ進み家老の老人に目を一瞬留めるがすぐに恭しく座すと頭を垂れる。 そして間もなく御簾の内側に何者かの気配がした。 そしてその者が静かに言う。 「僧都(そうず)よ、面をあげよ」 僧都と呼ばれたその男は顔を上げる。その表情は自信に溢れ堂々としていた。 「主上、今宵も御健勝の様で何よりでござります」 「前置きなどよい。して守備はどうでおじゃる?」 「は、完全に整いましてございます」 「ほう、ではいよいよでおじゃるな」 と御簾の向こうの人物は喜々とした声を発する。 「は、早速明日の夜襲撃致したいと思いまして馳せ参じましてございます。どうぞ御命令を」 「ホッホッホッ・・・行きゃれ行きゃれ。良い報せを待っておるぞ」 「はっ」 立ち上がる僧都。その背中に向かい御簾の向こうの人物は尺をトントンと肘掛けに打ち付けながら続ける。 「僧都よ、解っておるであろうの・・・くれぐれも都は何も感知しておらぬぞ」 「はっ・・・」 僧都は神妙な面持ちのまま答えるとそのまま広間を後にする。 「相変わらず面白みのない男でおじゃる」 御簾の中の人物即ち都を統べる帝が、けだる気に側の高齢の家老に言った。 「は、本来僧侶などという人種は好き好んで修行に励む輩。何故わざわざ苦しみが増える様な事をいたすのか私にはさっぱり解りませぬ。そのような者に面白みを求めても徒労に終るという事でしょうな」 「そうでおじゃるか?都の僧侶達は口だけは巧い者が多いと思うが?」 「ははは。これは一本取られましたな。確かにそういった輩の方がここでは多い事でしょう。しかしあの晏季はアウィルの山寺で修行していた田舎者ですので勝手が違うのでしょう」 「そうじゃの。しかし腕だけは確かとかの山の御墨付きだぞえ?その者が何故今頃になってこの都に現われたのか」 「主上がヒラキドに関心を持っていると何処ぞで聞き付けたのでしょう。彼の地は噂が持ちきりですからな」 「ふぅむ・・・そうかのぉ」 「はい。任務を成功させれば主上の庇護を受けれる事は必至。その道を歩む者にとって国寺を任される事程名誉で尊大な権力を手にする機会はないでしょう」 「ホッホッホッ、そうさの・・・もうよい。麿は疲れた、休む」 そう言って帝は寝所へと籠っていく。 晏季は渡り廊下を歩きながら赤みを帯びてく月を見上げる。 「くくく・・・俗物共が。あの邑(むら)の本当の価値を知らぬとは哀れなことよ。ふふ・・・待っておれヒラキドの夜叉姫よ」 辺りの闇は一層濃くなり庭の影に蠢く魑魅魍魎共はその数を増やすのだった。 赤みを帯びた月が細くたなびく雲と戯れ出した頃、澪晶宮の回廊にも連なった八角形の細長い形をした提灯が灯(ひ)を点して光りの路(みち)をつくっていた。 水上に映る提灯の揺らめきをぼんやりと眺めながら彩牙は砥の粉色(とのこいろ)の繻裙(きもの)を引きずった老婆の後に続いて池の上に作られたその回廊を歩いていた。 彩牙は特にする事もなく、考える。 これだけの大きさの館第( やしき)の割りには使用人の数が少ない。それに門闕(もん)には門卒(もんばん)さえもいなかった。 まぁ、ここに来て驚く事ばかりだからどうせそれでも大丈夫なのだろうとすぐに彩牙は思い直したのだが。 すると前を歩いていた老女が張りのある声で話しかけてきた。 「昇客殿、いつ発たれるのじゃ?」 「支度が・・・でき次第出発致します」 「ふんっ、ここには旅に必要な物位何でも揃っておる。荷物に纏めておくから明日の朝さっさと出ていくが良い」とつっけんどんに言う。 老女の勢いに彩牙のいたずら心がむくむくと頭をもたげて言う。 「ええ、それは有難うございます。ですが、私は是非とも旅の思いでが欲しいのです・・・そう、こんな美しい所なら尚更です」彩牙は美しいを協調してわざと暗にこめてやった。 老女は振り返り、唾を飛ばす勢いで怒鳴る。 「かぁー、なんたる罰当り(ばちあたり)じゃっ! お前なぞ本当はひー様のお目に入れるも汚らわしい。あした何が何でもこの水葉(すいば)様がお前をここの門闕から叩き出してやるわい」とふーふーと息をする。 彩牙はこの姫様狂いの婆あめ・・・と肩で笑いを堪えつつ水葉に挑発的な眼差しを向け言う。 「やれるもんならやってみな、婆さん」 「ほほぅ、この水葉に挑むか。良かろう目にものみせてくれるわ。この害虫め」 それからバチバチと二人の間に火花が散った事は言う間でもない。 そして彩牙が案内された部屋には卓の上に趣向をこらした御馳走が競い合う様に置かれていた。 そしてその奥に鏡が椅子に腰掛けていて、彩牙が入ってくると立ち上がり言う。 「彩牙、たいした持て成しはできないが、ここに居る間はゆっくりして欲しい。あと館第の中を見て回るのは構わないが、手を触れるのは止めておいた方が身の為ぞ」 そして奥の間に消えようとしたので彩牙が慌てて声をかける。 「鏡、良かったら一緒に食事をしないか?」 水葉はギッと彩牙を睨みつける。 彩牙は何処吹く風と知らんぷり。 「我は主達の食す物は身体に取り入れぬ」 「???」 そしてフッと微笑むと今度こそ奥へと歩んでいく。 鬼の形相をした水葉が彩牙の胴をばしりと叩き 「ひー様には我等人間の食べ物は百害あって一利なしなのじゃ」という。 「じゃあ何食べてんだ?」 「ひー様に必要なのは御神水じゃ」 「はぁ・・・水?」 水葉は はぁ、とため息をつき彩牙の服を引っ張り 「ほれ、さっさと食事しろ。片付かないではないか」と言って取り皿など並べたりするとさっさと部屋を出ていってしまった。 一人取り残された彩牙は黙々と食事を取り始め、箸で摘んだ肉団子をみて呟く。 「仙人は霞みを食うっていうけど・・・ハハやっぱりそうなのか?」と額に汗を浮かべつつ力なく笑った。 一人での豪華だが侘びしい食事を終えて彩牙は溢れ出す好奇心の誘惑のまま、気の向くままあちこちを歩き回った。 何に使うのか解らない壷が山の様に置いてある部屋やら、鍵もかかっておらぬ宝物、書物で埋め尽くれ、本が壁ではないかと思った程の書庫。 他にも贅沢な調度品で整えられた部屋が数えきれぬ程あったが、中でも一番びっくりしたのは、ただっ広い広間だった。 その四面にそれぞれ大きな扉が四つあって、どこに繋がっているのだろうと彩牙が何気にそのうちの銀と青鈍色の模様のものを開いてみるとそこは果てしなく広がる白銀と樹氷が連なる肌を刺す冷気の世界が突如現われた。 彩牙は慌ててぶるりと身震いしてその扉を閉めた。 そして扉を後ろ手にして絶句する。 ・・・じゃあ隣の朽ち葉色の扉のむこうは秋か?と考えた彩牙はそのまま今度は朽ち葉色の扉を開けてみた。 するとやはりそこには錦織り成した紅葉樹の森が広がっていた。 「はは・・は。四季の扉ってか・・・」 彩牙の脳裏に先程の鏡の声がフラッシュバックする。 _______館第の中を見て回るのは構わないが、手を触れるのは止めておいた方が身の為ぞ____ 「どうやら冗談じゃなさそうだな」 彩牙は目眩を覚えつつその広間を後にした。 そしてどこをどうあるいたのかもう解らなくなってきた頃やたらと長く狭い回廊に出て、そこを通ると小さなお堂の様な場所に出た。 そこは今迄の豪華な雰囲気とは違い壁際にそれぞれ四本づつ、計八本の太い紙燭が立っていて、そのうち五本のみが燃えていた。 そして薄暗いというだけ意外にどこかしら重い雰囲気をかもし出していた。 彩牙は中央に視線を移すとそこには質素な祭壇があった。 そしてその組木の上に祭られたもの・・・それを見て彩牙はまた目をみはった。 不思議な光沢を放つ扇がどっしりと構える様に置いてあった。 色は銀と言えばよいのか青と言えばよいか解らぬ・・・というか変な話ではあるが、例えていうなら透明の清水に似た色と光沢をというのが彩牙は近いと思った。 「驚いたな、こんな金属見た事も聞いた事もないぞ」 そしてその扇に近付き手を伸ばしてみる。 扇まであと二センチという所で彩牙の草履の鼻緒が切れた。 「・・・っ何だこんな時に」彩牙は屈み込むと適当にそれを結びつける。 そしてふと祭壇の組み木と布の間に目がいくと、奥に古ぼけた重厚な黒い木の開き戸が見えた。 彩牙はにっと笑うと今度はその扉に好奇心を惹かれてさっそく扉に向かう。 そして扉に手をかけてみるとギィィィィと軋む音がして細くお堂に光りが差し込んだ。 彩牙はただならぬ気配の元はここからかと感じ、暫しためらったがそれも束の間。 ええい、ままよと力一杯扉を押し開いた。 光りに目を細めると彩牙はほっと、安心した。 一歩踏み出した扉の向こうは大木の茂る杜(もり)だった。しかしただ違ったのは陽の幕に覆われた大木の間に水が降り小さな湖ができていたのだったそしてその上を幻の貴鳥キリアガライトスが群れをなして羽ばたいていった。 流水は雨や滝といったものではなく、清らかな水が果てしなく元が見えぬ様な高見から流れ落ちてきているのだ。 その幅はおよそ五メートル位で緩やかな流れのそれは宙に流れている部分は透明で陽を反射してキラキラと煌めく。 彩牙は狐に撮まれた様な気分でその荘厳なを口を開けて眺めていた。 古来水は蛟(みずち)や龍ととして祭られる事が多いが、この天を貫く流れをみて彩牙は納得できるなと思った。 そして流水に触れてみたくなり古木が朽ち果て積み重なっている辺りから湖に侵入してザブザブと水を掻き分けあるいてゆく。 彩牙は身を切るような冷たさを覚悟していたが意外にも水は肌に心地よいくらいだった。 そして腰が浸る位までいった所で漸く、下流の壁に到達する。 暫く自分の姿を映したそれを下から眺めたり横に回って眺めたりしてみたが、何の変哲もない水の流れだけだった。 そして再び正面に回り引き返そうとした時、彩牙の背後からニュッと伸びる白い手が伸びた。 彩牙は驚き上体を捻るとうっかり足下を滑らせ、手に何かを掴む感触があったがそのまま湖の底へと沈む事となった。 ゲホゲホとむせながら起き上がった彩がは片手で顔の水を拭うと反対の手に掴んだ物を見る。 女性が身に着ける領巾(ひれ)だった。 そして目の前には全身びしょ濡れになり、同じく身を起こす鏡がいた。 「これは鏡のか?すまなかったな」 と彩牙が屈託なく笑い手を差し出す。 鏡は別段怒った様子はないがその手を取らず、彩牙を見つめたままいう。 「主、何をしている」 「いや、時間を持て余してしまってな・・・それで館第(やしき) を拝見させてもらっていた。それだけだ」と苦笑いする。 「見ても構わぬが、触れるなと申した」 「ああ、そうしているさ」 沈黙した二人の間に貴鳥の声が響く。 「そうは見えなかったが・・・まぁ良い」 鏡は何の感慨もないといった様子で顔を逸らすと歩き出す。 彩牙はめげずにすぐに鏡の後に続く。 「これ鏡のだろ」 そう言って彩牙の差し出す領巾を鏡はようやく受け取ろうと振り向りむきかけた・・・刹那、彩牙の逞しい胸に引き寄せらる。 鏡を後ろから抱き締めたまま彩牙は耳元で囁く。 「悪いな・・・触れてしまった」 鏡は別段騒いだり慌てたりせずじっとしたまま前を見つめ言う。 「人間は恐い物を知らぬらしいな」 「知らない訳じゃないさ。いつも危険覚悟の上だ。そうじゃないと燃えないだろ」 鏡はキューッと唇を釣り上げ壮絶な笑みを彩牙に向ける。 「主はこの流水が何か知っておらぬ」 「流水より鏡の事が知りたい」 彩牙は挑発的な笑みを浮かべ鏡の細い腰に絡めた腕に更に力を込めて囁く。 鏡は能面の様なその笑みを貼付けたけたまま続ける。 「この流水が何であるかを知る事こそ我を知る事となるぞ」 「では何だ」 「聞いた所で答えると思うか?」鏡は嘲る様にくつくつと笑う。 「答えたくなるまでこのままでいるのも良いさ」 鏡は少し眉を潜めて言う。 「主の様なものには重すぎる・・・」 「重くはないさ」 「まだ何も聞いておらぬではないか」 「ははは、鏡を攫う為なら何でもできるさ」 鏡はそっと息を吐くと彩牙の腕を振り解き歩き出す。 彩牙はそれを許すまいと再び鏡の手首を掴む。 そして真剣な表情で言う。 「鏡・・・村の事なら鏡がいなくても立派に皆自立するだけの力はあるではないか。それにどうしてもここを離れたくないなら俺がここに残ってもいい」 鏡は烈火の如く激しい表情で答える。 「主はやはり解っておらぬっ! ここが何であるか、我が何であるか・・・」 「では・・・その答えだけでも教えてくれ。いや、嫌だといっても力ずくでも聞いてやる」 鏡と彩牙はそのまま睨み合う。そして鏡はくるりと背を向け言う。 「ここは・・・門だ。常世(とこよ)と現世(うつしよ) を結ぶ六継(むつつぎ)のな・・・そして我はその番人だ」 「・・・・・・それが」 「それは我に課せられた使命であり、我の存在する全てだ・・・」 「そんなの鏡の思いこみじゃないか。俺が納得できる理由を言ってくれ」 激昂する彩牙。 「そうではない。なぜなら・・・・」彩牙に向かって叫んだ鏡は言葉を咄嗟に飲み込む。 そして一瞬切ない翳りを瞳に落とすがまた嘲笑を浮かべ彩牙の腕を払う。 「お前などあのまま門の虚界魚(こかいぎょ)に食われてしまえば良かったのだ・・・」 静かに言い放った鏡の背は何者をも拒む様に彩牙に向けられ、ザバザバとお堂の入り口へと去って行く。 暫くその背中を見つめていた彩牙はザラつく思いを抱えたまま憮然として自分の部屋へと戻る事にした。 翌日澄み渡る快晴だった。 荷物を纏めた彩牙は門まで見送にきた水葉に礼を述べる。 「世話になったな。これで存分に山を越せる有難う」 「ふん、さっさと行け。しっしっ」と言って水葉は手で追い払う素振りをする。 彩牙は優しく微笑むと石段を降りていく。 きのう水葉が言っていた通り朝起きた時には旅に必要なもの一切が戸口に整理され置いてあった。 彩牙はそれを見た時思わず笑わずにはいられなかった。 そして・・・鏡とは会う事ができなかった。 何でも今日儀式があるとかで禊ぎが終る迄誰とも会わないそうだ。 嫌われてるな・・・と頭を掻きつつ彩牙は大人しく今は館第を出る事にしたのだった。 そして向かった先は名雲の家だった。 彩牙の顔を見て名雲は「勘弁してくださいよー」と頭を抱えていた。 「あのね・・・彩牙さん今夜の魂依祭(たまよりまつり)はあの八連祗(はちれんき)のおっさん達まで来るんですから無理ですよ」 「頼む・・・ちらっと覗くだけでもいいんだ」 「だからそれが無理ですってば。バレたら今度こそ俺、姫様に殺されますよ」 彩牙は水葉が儀式と言っていた魂依祭を覗こうとしているのだ。 「俺が助けた命じゃないか」 「だからそれには感謝してますよ。だけどそれとこれとは別です」 「ほほぅ、名雲君今くたばるのと後で姫様に殺されるのとどちらがいいかな」 名雲は苦虫を噛み潰した顔をする。 「いつもの魂依祭だったらいいんですけどね、何でも穢された峰を鎮める為もあるそうなんですよ今回は。そ・こ・で・出刃ってくるのが八連祗っておさん達でこれが恐いの何の、普段はその八峰で封じを護ってるんだけどその穢された峰の三人が来るんだよこの祭りに」 「解ったじゃあ場所を教えてくれるだけでいい。絶対に名雲の名前もださない」 名雲は暫く途方に暮れていたが彩牙がてこでも動きそうにないと思い、場所だけですからね。と言って小声で教えた。 タムタムタム・・・・・ 太鼓の音が黒い杜の影を縫っていく。 辺りの雰囲気に神妙な面持ちの邑人達。 小さな境内に赤々と篝火が焚かれてやがて低い男達の読経の声が連なる。 その声の主達こそが八連祗達であった。 彼等は白い山伏の着物に身を包み社殿から伸びた舞台を囲み三方に立っていた。 そして一際声が高くなると各々のもっている錫杖(しゃくじょう)を打ち鳴らす。 そして辺りがふっと静まり返る。 サワサワと杜を吹き渡る生暖かい風。 ・・・・シャン・・・・シャン・・・シャン・・シャン、シャンシャン 冴え渡る鈴の音。ポウと浮かび上がる白い影。 やがてそれは篝火の橙に照らし出され、重力を感じさせぬ優雅さで境内の闇から現われる。 足首に着けた鈴を響かせ白い巫女の繻裙を着た鏡が領巾(ひれ)を傍めかせ舞いながらでてきた。 それに伴い金の宝鈿(ほうでん)から長く下がった数本の釵子の長い飾りもシャラシャラと揺れる。 次第に激しく律動する鈴の音。闇夜に伸びる鏡の四肢。 誰もが幻想的なこの景色に固唾をのんで見入っていた。 だが・・・突如その幻想を破るものが現われた。 それは 「母ちゃぁぁぁぁん、父ちゃぁぁぁぁん! 大変だぁぁぁっっっっ、大変だぁぁぁぁ」 という自分の家で留守番をしていた子供の叫び声だった。 邑人の群れの中からその子供の両親が慌てて走り出て子供を落ち着かせる。 「どうしたんだい?ちゃんと留守番してろって言っておいたろ」 子供はベソをかきながら途切れ途切れの声で言う。 「っぅぅ・・おっかねぇ・・・おっか・・ねぇばけもんが・・・・・坊さんの格好したヤツが家を」 事情がよく飲み込めぬ両親は違いの顔を見合わせてどうしたものかと途方に暮れる。 ただ事ならぬ気配に邑人達がざわめき始める。 鏡は眉をひそめ、邑の気の流れをよんでみる。 何か・・・何かがこの邑に入り込んだ。 この気配・・・・・峰を穢したあれと同質のものだ。 鏡は良く通る声で言い渡す。 「皆の者良く聞け。この邑に大量の穢れを持ち込んだものがいる。このままでは邑が壊死してしまう。皆は簫海(しょうかい)泰叡(たいえい)の二人に続き退避せよ。邑に残った者達は我と始信(ししん)で助け出す」 鏡は振り返り八連祗の三人を見て頷く。 三人も心得たとばかりに錫杖を一斉にシャンと鳴らし 「鏡様、どうぞ御無事で」と始信と呼ばれた者以外の二人は高らかに告げ、急ぎ走り邑人達を誘導する。 その一群の中に別の理由で青ざめていた名雲がいた事は誰も気付く事はなかった。 鏡達は木々を縫い暗い杜を抜け石段を駆け大路を疾風のように疾駆した。 この時祭りを覗き見していた彩牙も見つからぬ様に実は鏡達の後をつけて駆けていた。 集落へ近付くにつれ、辺りを包む瘴気は次第に濃密さを増して絡み付いてくる。 それに伴い鼻先に魚の腐った様な異臭が次第に強くつく。 「この臭いは一体・・・」始信は鼻に皺を寄せて言葉を詰まらせる。 鏡は集落に残っていた邑人への絶望感を打ち消す様に唇を噛み締めただ黙々と走り続けた。 そして茅葺きの家が一つ二つと見えてきて軒並みの立ち並ぶ通りへ出るとそこには地獄絵図が広がっていた。 鎧を着た腐肉の固まりが赤子の果てた姿に何度も刀を降り下ろしていたり、足腰が弱く逃げ切れなかった為、生きながらにして、元は邑人だった腐肉の固まりに食いちぎられる老人達。 この邑は今や屍の群れで溢れ、一人、一人とその仲間を増やしていった。 家屋の倒壊した影から泣きわめきながら少女が、刀を振り回した腐肉の固まりに追い掛けられ必死に走ってきた。 そして鎧が刀をブンと投げ付ける。それは少女の繻裙の裾に刺さり少女は体勢を崩した。 鏡は地を蹴った。そして一言異界の言葉の呪を発する。 刹那、額に力が収縮し溢れる。 ________力の具現_________ 鎧の前には真珠色の光沢を放つ一対の角を生やし、紅く光る双鉾を激しく燃やす鏡が立ち塞がっていた。 鎧は構う事なく更に肉を食もうと太い腕を伸ばす。 その瞬間ボトリとそれが落ちる。 少女はひぃぃぃぃっと言って地を這いずる。 「早う、お行きっ! 」鏡が両手に六継の気を呼び出し作った水の刃を纏わりつかせ叱咤する。 その声に反応し、少女はガクガクと首を振って繻裙を無理矢理引きちぎって駆け出していった。 彩牙は鏡の姿に暫し愕然と固まるがフッと唇を歪め「鏡っ、加勢するぜ」と木の影から踊りでて大刀を引き抜き向かってくる腐肉の群れに飛び込む。 「彩牙っ、まだうろちょろしておったのか!?」鏡は横から刀を振りかぶってきた鎧の攻撃をひらりと躱しながら叫んだ。 「ふふん、傾国の御姫様を助けるのは格好良い王子様って決まってるだろ」といって彩牙も大刀を回転させ力任せに鎧共を薙ぎ払いブンともう一度虚空を切る。 また別の場所で参戦している始信が錫杖で邑人だった腐肉の群れを地に叩き沈めながら言う。 「邪魔だ、去れ。うぬの様な行も積んでない者がこの瘴気に当たっていてそう長く持ちはすまい」 「はぁ? 瘴気だぁ、俺は気狂いじゃねぇ。ちゃんと正気だぜ」と憤慨して言う。 瘴気と正気を勘違いしている彩牙のボケを聞いて、鏡と始信はどっと疲れを感じ二人はもう何も言うまいと黙々と目の前の敵に集中し始める。 しかし相手は死した者。何度も何度も地に沈めても片手一本になって迄襲ってくる。 修験者として厳しい行に励んできた始信も流石にじっとりと汗を掻く。 剣の達人とはいっても一般人の彩牙にいたっては、瘴気が身体に応え肩で息をしていた。 次第に疲労が色濃く浮かび始めた二人を見遣り鏡は二人に言う。 「始信、彩牙、少しだけ我に時間を作ってくれ」 始信と彩牙は頷くと目の前の腐肉共を適当にあしらい、鏡が自分の回りの腐肉を切り裂いた瞬間を見計らい背を向け陣をつった。 ぞくぞくと起きだしてくる腐肉を始信と彩牙が防いでいる間に鏡は異界の人間には聞き取れぬ言葉を紡ぎ出す。 そしてその長い呪を唱え終り手印を結ぶと霧が勢い良く吹き出し辺りを包む。 腐肉はそれに触れた瞬間ジュュウウウと耳障りな音を響かせ崩れていった。 そして完全に動かなくなる。 「は・・・はは。鏡、なかなかやる・・な」ゼイゼイ喘ぎながら彩牙が言う。 だが安堵した彩牙とは裏腹に鏡と始信は渋い顔をしていた。 「力・・・が落ちている」鏡は自分の六継の気を集めていた手を見つめながら言う。 「力が落ちてる?・・・あれだけ凄い技使ってて・・か」 怪訝そうな表情の彩牙を尻目に始信が続ける。 「鏡様のあの技は六継の門から直接力を取り込み、正の気に変化させる技。普段の威力ならこんな腐肉の固まりごとき跡形もないでしょう・・・」 その時背後から低いがよく通る男の声がする。 「そう・・・その通りだ。このヒラキドの下流を穢す前までは・・・な」 その声の主は崩れた腐肉を草履で踏み締め暗がりから現われた。 僧侶の着物を纏った三十路(みそじ)位の長髪の男だった。 爛々と光る双鉾で見返す鏡。 始信はその男から発せられる禍々しい邪気に肌がピリピリと泡立つのを感じる。 「私は晏季。アウィルで行を積んでいた」 「はんっ、坊主なら坊主らしくアウィルに引っ越んでろってんだ」 少し復活してきた彩牙が野次を飛ばす。 その途端晏季がすっと手を上げ、黒い気の固まりを飛ばす。 彩牙はぐっと呻き、まともにそれを腹に喰らい地面に膝をつく。 始信が緊張した面持ち問う。 「下流を穢したとは?」 「お前達が八峰の穢れに駆けずり回っていた頃から準備していたよ。なかなか面白かったぞ。下手な細工ではすぐに夜叉姫に見破られてしまう。そこで考えたのさ・・・ちょうど頃合良くヒラキドの馬鹿な男が都に寝返りしようと動き回っていたいたのでな、そいつを通して傀儡を作っておいたのさ」 とすっと袖を振ると影から虚ろな目をした女鹿が歩みでる。 「・・・女鹿」目を瞠る三人。 「邑には結界が張ってある。何故!?」 始信は眉を顰め呟く。 「くっくっくっ・・・その男確か名雲とか言ったかな、そいつに都の夢、幻話しをたっぷりしてやって土産を持たせてやったのさ。一つは姫様に看破されてしまいましたが・・・もう一つはこうして役立ってくれましたよ」 「くっ・・・では八峰の封じ荒らしは盲ましだったのか」 始信が唸る。 「まぁそうですね。それもあったが夜叉姫殿の力を負寄りにする事はできるし一石二鳥だったといったところだ」そう言うと晏季は静かに微笑む。 「そろそろ、お喋りも終りにしましょうか。良い辞世の句は思い浮かびましたか」 身構える始信と彩牙。 晏季は余裕の笑みで懐の物を取り出す。 それは濁った翠色の拳大の石で、尋常成らざる瘴気を発しこの邑に振りかかった災厄の源でもあった。 始信は一瞬瘴気の凄まじさに一瞬怯むが驚嘆のあまりその石の名を叫ぶ。 「それは、誘濁石!? うぬそれを手にするとは唯ではすまぬぞ」 「はっ、それはお前達凡人ならそうであろうよ。だが・・・私はこの力をも制覇した。 そして次は門の守護者、夜叉姫の力を手に入れる」 「貴様・・・なぜそれを」 「ふははははは・・・・この石が私に教えてまれたのだよ。夜叉姫の事も門の事も」 「・・・完全に魅入られたな」呻く始信。 石をかざし瘴気を吹き出す晏季。 再び蘇る腐肉の群れ。始信と彩牙は瘴気に喘ぎながら背筋に冷たいモノを感じる。 ・・・がその瞬間力強い呪が発せられる。聞き取れぬ音律。 それは晏季が喋っている間鏡がずっと小さく唱えていたものだった。 呪によって水の小さな塊ができる。それはやがて逆巻きながらコウと二つに分たれると虚空を切り裂いた門となった。 その裂け目から不可思議な色の光りが爛々と発せられている。中から出(いで )たのは澪晶宮の奥の間に祭られていた扇だった。 鏡がそれを俄に掴むと小さな水の門はバシャリと地に砕け散った。 「今ので大業を使える最後だ。始信、彩牙すまぬな」 鏡はキューッと唇の端を釣り上げ不敵な笑みを浮かべると両脇から襲い繰る瘴気の波より早く晏季の懐に飛び込もうと地を駆ける。 彩牙と始信もそれを合図に瘴気に参りながらもなんとか避けて新たに蠢きだした腐肉の塊達にきりかかる。 晏季はそうはさせまいと腐肉の塊を集結させ塀を作る。 鏡は正面の腐肉の突き出した刀を扇で跳ね上げ腐肉の首に一閃させ首を落とす。 すぐに両の横合いからも刀が襲い掛かるが高く飛び上がり降り様に腐肉共に蹴りを入れ吹っ飛ばすと間髪入れずに駆けだし、後から後から湧いてくる腐肉を俊敏に打ち倒しながら確実に晏季に迫る。 晏季は急ぎ手印を結ぶ。するとそこらになぎ倒されちらばっていた腐肉の群れと、鎧の残骸、刀が一つに寄り集まり黒い小山となって三人の前に立ち塞がる。 ぐじょぐじょと赤黒く固まったそれの上に鎧の残骸が張り付き、刀は幾つもの伸ばされた触手で巻き付けまるでたこの様だ。 「くっくっくっ・・・さてどうするのかな? 夜叉姫殿はもう神力を使い切った様だ」 「ふっ・・・好都合。始信、彩牙、そやつは任せた」 叫ぶと共に晏季へと迫る鏡。 その時その塊がぶじゅるるるると素早く畝り鏡の行く手を遮ろうとするが、その触手が絡めた刀を彩牙がギィィンと弾き返す。 「姫様、頼んだ」 「承知」 鏡は軽く迂回して前から飛んでくる触手を扇で跳ね上げたり、くぐり抜けたりしながら晏季の元に辿りつくと、扇を素早く閃かせる。 晏季も負けずに俊敏に扇の攻撃を避ける。そして鏡に生まれた一瞬の隙をつき瘴気を溜めた手刀を繰り出す。 それは深々と鏡の肩に突き刺さる。 晏季はニヤリと相手を見下ろす。 しかし見上げた鏡の紅い唇の端は釣り上げられ、細く開く。 「とったり・・・」 瞬間晏季は腕先から激しい衝撃を受ける。 「っ・・・!?」 晏季が気付くより早く鏡は肩に手を食い込ませたまま更に二撃、三撃と繰り出す。 その度に晏季は何度も身体を仰け反らせやがて失神する。 最後に晏季の目に映ったものは霹靂火(いなずま)を絡み付かせた鏡の扇が閃光する姿であった。 鏡は崩れ落ちた晏季を冷ややかに見下ろす。 そして・・・肩から溢れ落ちるのは紅い液体ではなく透明な水だった。 鏡はすぐに腐肉と対峙している二人を振り返る。 流石の二人も荒々しく息をつきながら塊と苦戦している。 それに塊は制御する者の意識を失ってもまだ動いていた。 ・・・・ドクン・・ドクン・・・晏季の握っていた誘濁石が密やかに脈を打ち始める。 瞬間、鏡は振り返らずに横に飛び、体勢を崩し地に一度転がり片膝を着く。 鏡の背後を腐肉の塊が飛び退り誘濁石ごと晏季に被さり融合する。 鏡に駆け寄る始信と彩牙。 彩牙は鏡に手を貸し助け起こす。 「ありゃあ、どうなったんだ?」 ぞぶぞぶと蠢いていた塊は晏季を取り込み終えると三人には目もくれず何処かにズルズルと移動し始めていた。 鏡は肩に手を当てながら苦し気に吐き出す。 「・・・不味・・い。門・・・へ向かって・・いる」 「鏡、大丈夫か。あまり喋るな 」 鏡を気づかいそっと支える彩牙。 「行かね・・ば」 「おい・・そんな怪我で無茶だっ」 彩牙は走りだそうとする鏡を強く掴む。 黙って見つめていた始信が静かに口を開く。 「彩牙、きゃ奴は六継の門に向かっている。それがどういう事か解るか?」 彩牙はムッとして言い返す。 「門が何だというんだ。鏡がこんなになっているのにまだ戦えというのかっ」 その時鏡がキッと瞳を上げ彩牙を見上げる。 「彩牙・・・六継の門は・・純粋な力・・と言っても過言・・・ではない。・・・それをかようなものが取り込めば・・・・・このホウコウだけではなく、他にもどれだけ・・被害を・・被るか・・・解らない」 そう言って口を閉じた夜叉姫の紅い双眸は気高く強い意志を秘め、最初に彩牙に逢った時の様に彩牙の心を灼いた。 「彩牙・・・主を見込んで、最期の頼み・・がある」 青白い顔を逸らす事なく鏡は真剣な面持ちで彩牙に告げる。 この時始信は苦い表情でそっと目蓋を閉じる。 澪晶宮の奥の間。 五本の紙燭が相変わらずちろちろと燃え、元の位置に祭られた不思議な光りを宿す扇をさらに艶しい光沢(いろ)に染めていた。 その祭壇の前に佇む鏡と彩牙の対照的な顔も紙燭の光の柔らかな暖かみで照らし出される。 彩牙のその表情は厳しく、鏡のそれは正反対に水を打った水面の様に穏やかだった。 「俺に・・・俺に鏡を殺せというのか」 静かに押し殺した声音。 「殺す・・・というのとは少々語弊があろう。我の力を継いで欲しいと言ったまで・・・」 カッと目を見開き憤怒する彩牙。 「どこが違うっ! 鏡の心臓を抉るって事はそういう事だろうがっ・・・」 「我は元々主らと違い生きたモノではない。六継の門の御神水から創られた守護物にすぎぬ」 「ふざけるな。自らの考えで行動し、自らの感情を持つ者が生き物でないって事あるかっ、少なくとも俺にはそんな風には思えない」 それを聞いた鏡は冷笑を浮かべる。 「我はこの通り、主らのような温かな血も流れておらぬモノぞ。それにそう思っている事こそ主の思い込みにしかすぎぬかもしれんぞ」 その途端彩牙は淋し気な顔をする。 「もし・・・もしそうだとしても、俺はお前に生きていて欲しい・・・。お前に民や世界などに縛られず生きて欲しい」 ・・・瞬間、鏡の手刀が彩牙の頬を掠め血がたらりと滴る。咄嗟に彩牙は身を引いていた。 殺気を含んだ鏡の瞳が紅く底光りしている。 続けてその手を横に払うが彩牙はそれを受け流す。続いて二投目の手刀を繰り出すがまたも受けられるとそのまま肘を曲げての攻撃へと転じる。 鏡は尚も傷着いた肩を引きずり片手のみで素早く攻撃を繰り出すが、彩牙はそれを受け流すばかりだった。 そして一度飛び退った鏡は扇を持ち出し薙ぎ払う。 すかさず飛び去りそれを避ける彩牙。 その彩牙の立っていた場所は黒く焦げて抉れていた。 「何故だ・・・何故お前はそこまでして守護者たろうとするんだっ」 「それが我の有る理由・・・我の役目」 尚も扇で霹靂火を発する鏡の扇。そのせいで床のあちこちに穴があく。 「嘘だ・・・嘘だ、嘘だ、嘘だぁぁぁぁぁぁ」 吠える彩牙。互いを見つめたまま佇む二人。 「お前は・・・」 そして青龍刀の柄をしっかりと握り締める彩牙、それからゆっくりと構える。 鏡もまたゆっくりと横に真一文字に扇を掲げる。 そして・・・・ 鏡の扇を握った手は彩牙の首筋の薄皮一枚前でピタリと止まっていた。 そして彩牙の青龍刀も鏡の左胸の薄衣の上でピタリと止まっていた。 その時始信が堂に慌てて駆け込んでくる。 「鏡様っ!! きゃ奴がやって参ります。もう宮に張った結界も限界ですっ」 鏡はふっと淋し気に微少(わら)うと彩牙から視線を外し、始信に向かい居住まいを正す。 「始信、今迄良く仕えてくれた。主達には重い運命(さだめ)を残したままですまぬが、これからも八峰の封の守護は頼んだぞ」 「鏡様?・・・何をなされるおつもりです」 始信は不安気な表情で問うたがそれには答えず、鏡は祭壇に置いてあった小さな瓶子(へいし)を取り奥の六継の間へと暫し姿を消し、始信の前に戻りその瓶子を渡す。 「まだ何とか峰を抑えるには大丈夫だろう。これを持ってキンカ峰に行ってくれ」 始信はまだ何か言いかけようとするが、鏡の瞳を見つめるとすぐに閉口し 「鏡様、私はいつまでもあなた様をお慕い申し上げております」 と述べて礼を一つすると堂を去っていった。 そして鏡は堂に残された彩牙を振り向く。 「お前は私の唯一の我が儘も聞いてくれなかったのだな・・・・」 そう言って鏡は苦笑した。 「・・・・・・・」 彩牙は鏡のそう言った姿が、いつもの凛と澄んだ強いものではなくか細く酷く脆弱なものに見えた。 「彩牙、主といて結構楽しかったぞ。もう現世(うつしよ)でこの姿で逢おう事はないだろうが、達者でな」 そして鏡は六継の間へと消えていく。 彩牙は呪縛をかけられた様に指一本動かすこともできなかった。 そして最後に眩い光に視界が消える。 数年後・・・キンカ峰の寺の一角で小さな祠を見つめる彩牙がいた。 彼は今修験僧としてこの寺に居た。 そして鏡が消えたあの日に思いを馳せる。 あの後彼は目を覚ますと何もない草地に横たわっていた。 そして残っていたのは荒れ果てた村とただっ広い草地だけで鏡があの時あの化け物ごと澪晶宮を何処かに封印したという事だけが解った。 そんな彼の肩にポンと手を置いた者がいた。 始信である。彼はこのキンカ峰の封を護る事を任されたこの寺の主人であり、八連祗の一人であった。 「思い出していたのか」 「はい。始信様」 二人の間をサワサワと風が冴え渡る。 「鏡様はどうなったのでしょうか」 彩牙は重い表情で言う。 「なぁに、あのお方の事だきっと御無事であられるだろうよ」 「そうでしょうか?」 「はっはっはっ。こうして俺達が無事だという事こそ良い証明じゃないか」 「・・・・・・鏡様は何故あの時、俺に御力を継がせようとなさったのでしょうか」 「それは、力を継承させる時に解放される力で、お前にきゃ奴を打ち倒してほしかったのだろう」 「何故・・・そこ迄」 始信は庭石を見つめながら呟く。 「鏡様にとって邑人は唯一の家族みたいなものだったのではないかなぁ・・・」 「・・・・・」 そして無言で庭を見つめる彩牙を見て始信は子を見る親の様な顔つきで言う。 「なあ彩牙、あの鏡様の護っておられた六継の門は何の象徴と言われていたか知っているか?」 「いえ、存じません」 「あれはな、時の流れの象徴なのよ。あの異界を繋ぐ門が何故流水だったか解るか、それはな流水が流れを留める事を知らぬ様に、また時間も留まる事なく流れてるって事だ」 彩牙は納得した様な納得せぬ様な鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。 「その門から創られた鏡様だ。もう俺の代では逢えぬかもしれないが、何時か御力を貯えられた鏡様が儂達の子孫と逢いまみえているかもしれぬぞ」 そう言って微笑む始信につられ、「そうですね」と答えた彩牙の顔はその青空の様に晴れ晴れとしていた。 慶樂 二十六年 洲礎帝 都に反す忌の逆賊を撃たしむ。 古部国神統記 一節より ・・・後に鏡がカガリと名乗りラージバル大陸を旅するのはまだまだ先の事である。 カガリ外伝 鬼が棲む邑 了 すぐ解る鬼霞ワールド☆ 『ホウコウ』テーヴァで一番海抜の高い山。数々の峰が寄り集まってて、大きく分けると九つに別れる。そのまん中の一番高い峰の頂きに澪晶宮は封印され、周りの八つの峰の何処かで八連祗が各々封じを護っている。 『八連祗(はちれんき) 』白い山伏の着物を纏ったカガリに仕えていた僧兵みたいなもの。その名の通り八人いて今も封じを護り脈々と受け継がれている。 『封じ』カガリの封印した澪晶宮のある峰を取り巻く八つの峰に、門の力を安定させる為に、負よりになりがちな現世の地場を安定させ中立に保つ為のもの。 『ヒラキド』カガリの治めていた邑(むら)で、鬼霞村の正式名称です。昔都の人々から鬼が棲む邑と呼ばれていた為そちらの方が一般的になってしまい、現在ではそれが訛り当て字されたものになり鬼霞村と呼ばれるようになりました。したがって正式名称を知っているのはヒラキドの村人位です。そしてこの話しでヒラキドは滅亡してしまいましたが、生き残った邑人が村を再興させて今では遊牧民として細々と鬼霞村を存続させてます。こちらの方は本編のホウコウのどこかをさまよっているのでお時間のある方は宜しければ立ち寄ってみて下さい。ただ所在を捜すのにはかなり歩き回る事となるでしょう(笑) 『昇客』ホウコウの麓からヒラキドへ昇ってくる客人の事をそう呼ぶ。現在の鬼霞村でもこの言葉は使用されている。 『澪晶宮(れいしょうきゅう)』カガリの住む館第(やしき)。現在ではホウコウのまん中の峰の頂きの別次元に封印されている。 『六継(むつつぎ)の門』澪晶宮の奥の間にある常世(とこよ)と現世(うつしよ)を結ぶとされている門。空から流れる流水が門になっていて、そこを潜ると虚界魚(こかいぎょ)という生物がいて、侵入したカガリ意外の現世のものは全て食い付くす。門の常世側から汲んだ水を飲むと現世での生き物には不老不死や不思議な力が宿るとされている 『誘濁石(ゆうだくせき)』アウィル峰に封印されていた禁忌の力を持つ石。 『チャム』テーヴァの段々畑で栽培されてる特産品。葉を煎じて飲む。高価。 『淵黒(ふちぐろ)の巣』テーヴァの断崖絶壁に巣を作る黒い鳥の巣。主に海草類でできていて食用の珍味として有名。かなりの貴重品。 『古部国神統記(こぶこくしんとうき)』テーヴァに伝わる歴史書の一つ。かなり古代の事が綴られ、実在の人物か国なのか不明なものが多い。 カガリについて。 ◎名前◎ カガリのヒラキドでの呼び名は御雷杖鏡姫(みかづえのかがみひめ)で普段は鏡様と呼ばれていました。 現在ではこの名は伝説としてホウコウの一部で雷神や水神とごっちゃにされて祭られています。 現在本編で名乗っているカガリというのは鏡の素性をあからさまにしない為の魔法とまではいきませんが、お呪いみたいなものです。それに加えてカガリの本当の名は異界に棲んでる鏡の創造主しか知りません。 ◎姿◎ 普段は金の瞳で角は幻術で隠れています。力が高まると紅い瞳で角が顕現します。食事は御神水のみで、長く人間と関わる時などは同じく幻術で食事をした様に見せ掛けたりします。 ◎力◎ 六継の門から創造されたカガリはヒラキドにいた間はその力を門から自由に引出し水として使っていましたが現在では澪晶宮ごと門も封印してしまいましたので本編では多分殆ど使えません。 ◎扇◎ カガリの創造主が神力の弱まる時期や門に異変が起きた時の為の、門とは別の力の源で護るものとして与えた武器。霹靂火(いなずま)を発する。現在カガリが持ってる扇は封印された澪晶宮を出入りする為呪をかけられ力を抑えてあります。 ようやく完成致しましたこの外伝、只今らふれしあが中途半端に中国かぶれになっている為、えせながらもなんとか和中折衷っぽく作ったつもりです(笑) ですから変な語彙の使い方をしていたとしても、どうかお許し下さいませ。 本当は彩牙は高村さんのジーク・シェリアにしようかな?などと不届きな事を考えていたのですが、あまりのこっ恥ずかしいこの展開とジークにすると色々話しが盛り上がってしまい、シーン整理ができなくなってしまい泣く泣く諦めました。 あとrameさんの追跡の瞳は瞳というからにはもう一つ対になる宝石があっても良いかなぁなどと思い、誘濁石を密かにその宝石にしようかなどとまたしても不埒な事も妄想していたのですが、こちらも整理がつかなかった為泣く泣く諦めました。 でも今回のこの話しでようやくカガリについてちょっぴり固まってきたので本編の方もなんとか進めるかなぁ?と思っております。では皆様、本編の方も今後とも宜しくお願いします。 スペシャルサンクス meira様・・・許可いただけました事、及び編集などなどなどいつも本当にお世話になっております アトニーク様・・・ホウコウの他アウィルまで拝借させて頂いちゃいました。すみません。 久遠様・・・キリアガライトス無断拝借用させて頂きました。すみません。 改めて 有難うございました。 |